
開発者コラム② 〜研究開発って何をしているの?“くっつく酸化チタン”の秘密〜
前回は、ヤモリの足の構造からヒントを得た「自己結合性酸化チタン」のお話をしました。
今回は、その技術がどのように生まれたのか、「研究開発とは何か?」という視点からご紹介します。
接着剤なしでくっつくって、どういうこと?
一般的に、物と物をくっつけるには「接着剤」や「バインダー(糊)」が必要です。
たとえば、デンプンやタンパク質などの有機物は水に溶かすと接着剤になり、紙や布などを貼り合わせることができます。
でも、金属やガラス、陶器などの無機物はそう簡単にはくっつきません。
接着するには、専用の接着剤や、時には1,000度以上の高温で溶かして貼り合わせる「溶接」が必要です。これは家庭で簡単にできることではありません。
酸化チタンも無機物なので、従来はバインダーを使って貼り付けるのが当たり前でした。
しかし、ここに大きな問題がありました。
バインダーを使うと、酸化チタンの力が発揮できない?
酸化チタンには「光触媒」という特性があります。
光が当たると、表面で有機物を分解する力を発揮するのですが……その「表面」がバインダーで覆われてしまうと、力を発揮できなくなってしまうのです。
つまり、「くっつけるためにバインダーを使うと、酸化チタンの良さが消えてしまう」という矛盾があったのです。
常識を疑い、仮説を立てる
研究開発の第一歩は、「課題を見つけること」。
そして、その課題をどうすれば解決できるか、仮説を立てて検証していきます。
今回の仮説はこうでした:
「酸化チタンの粒子を、重力の影響を受けないほど小さくすれば、自分でいろんな表面にくっつくのでは?」
物質は、極限まで小さくなると、重力ではなく別の力(分子間力など)で引き合うようになります。
この理論に基づき、私たちは酸化チタンをナノサイズ(超微粒子)に加工する研究に取り組みました。
仮説は正しかった!
粒子のサイズを小さくしていくと、物理的な性質が変化し、あるサイズを下回ったとき、酸化チタンは本当に“自分で”さまざまな素材に結合するようになったのです。
この発見により、バインダーを使わずに、酸化チタンの力を最大限に活かせる製品が誕生しました。
現在、多くのお客様にご利用いただいている製品は、こうした研究の積み重ねから生まれたのです。
広報 清水